雪見麗子像

岸田劉生

雪の降った日に麗子を縁側に座らせ、眩しくない方を向かせて描いたという作品である。雪に反射した光が麗子にあたっていたのであろう、肌の色が白っぽく描かれている。着物の柄や麗子の髪などを見ると、リズムのある筆遣いがなされていることがわかる。特に髪の毛先や袖のあたりの筆致は流れるように調子がよい。雪の積もった日に縁側に座らせられ、寒かったのであろうか、麗子の顔は少しこわばっているかのように見える。日記によると、1920年2月29日と3月1日の二日間という短期間で描いていることがわかる(※1)。油絵のような重厚な存在感のある麗子像というよりは、普段の一人の少女としての麗子の姿が表れている感じが強い。劉生が、やがて京都へ移り住み、日本画の伝統に傾倒してゆく予感の一作である。
また、劉生は水彩と素描について次のように述べている。「実際水彩には水彩の味がある。無論労作からくる、シンとした深い重い味はない。しかし、新鮮な自由な大胆な強い味等は水彩のよき技法だ。感じを、しっかり掴んで、呑み込んで、つまり充分その美を理解し切ってきて、いきなりそれを表現する。この事が素画及水彩の秘訣だ(※2)。」

※1『岸田劉生全集 第五巻』 岩波書店 1979年
※2『岸田劉生全集 第二巻』 岩波書店 1979年