美人画 風車

宮川長春

帯の下が膨らんで描かれていることから、右手で褄を取っていると考えられる。このように片手で着物の褄を取り背中を後ろに反らして「く」の字型に立つ立美人の図は宮川派の作品の他に、18世紀初頭に活躍した懐月堂派の作品によく見られる。
しかし、ここで宮川長春の作品と懐月堂派の祖、懐月堂安度(生没年不詳、1704~1716頃に作画)の作品を比べてみると、長春の作品は安度の力強くダイナミックな筆使いに対し、柔らかな筆致で描かれていることがわかる。全体的に丸みを帯びた線で描かれているため、温雅であり優美さの中に艶冶な香気が漂っている。また、ふっくらとした面持ちも作品の印象を柔らかくしている。
着物の模様は緑、青、赤を基調とした鮮やかなもので、優雅な顔立ちの美人に品格を添えている。細部まで細かく丁寧に描かれた着物の模様からも、肉筆画を専門とし懐月堂派の絵師に代わって肉筆浮世絵の第一人者になった長春の優れた手腕が窺える。
立美人というシンプルな構図の中に、長春独特の柔らかで優美な筆使いや鮮やかな色彩表現が存分に発揮された逸品である。