美人画

宮川長春

この作品は先に挙げた宮川長春作の「く」の字型に立つ立美人の顔に比べると、顔が面長に描かれており、菱川師宣(生年不詳~1694)や懐月堂安度(生没年不詳、1704~1716頃に活躍)の影響が見られる。体型も縦に長く描かれており、面長な顔と組み合わされて、すっきりとした印象を受ける。
さて、この作品で重要なポイントとなっているのは袖を押さえている手ではないだろうか。美人が吹きつける風にそっと袖を押さえる様子が描かれているが、手は描かれていない。人物の片手が着物に隠れて見えない作品は浮世絵に多く見られるが、この作品では両手とも描かれていないため袖口の印象が強く残る。あえて袖口に手を描かないことにより、色っぽさが増しているようである。見せる色気ではなく、隠すことによって魅せる色気を演出しているのではないだろうか。ここに長春のしぐさの美に対する優れた感覚を垣間見ることができる。
また、風になびく着物の裾や帯が、流れるような滑らかな筆致で描かれていることにより、画面の中にリズムが生まれている。画面の中に流れる空気がこちらにも伝わってきそうな感じのする作品である。
さらに、着物の模様は細部まで丁寧に描かれており、色鮮やかな王朝絵巻が着物の上に展開している。