麗子像(正面麗子)

岸田劉生( 1891-1929 )

劉生は麗子が生まれるとまもなく麗子のスケッチを始めた。本格的に麗子をモデルにして麗子の肖像を描いたのは「麗子五歳之像」(1918年)からである。この作品は8歳の麗子を描いたものである。油彩、水彩などを含め50点以上存在するといわれる麗子像の中でも、この作品のように正面を向いた麗子を描いたものは数少ない。

まっすぐに前方を見据える麗子のまなざしが実に神秘的で、重厚な存在感のある作品に仕上がっている。じっと前方を見つめる麗子のまなざしには、人間の心の内面を対象化し写実によって表現することを深く追求した劉生の姿が彷彿としている。また、麗子の着ている着物は他の麗子像にも描かれているものと同じで、鹿子模様の一つ一つまで細密に描かれ、背景の茶と髪の毛の黒に着物の朱が映えている。