フギット・アモール(去りゆく愛)

オーギュスト・ロダン( Auguste Rodin, 1840-1917 )

彫刻家ロダンといえば《考える人》である。フランス政府から注文を受け長きにわたって取り組んだ大作《地獄の門》※。
その装飾のために《考える人》や、この《フギット・アモール》などさまざまなモチーフが生み出された。
ロダンの生前に《地獄の門》が完成・鋳造されることはついになかったが、逆にこれらの像は独立し、複数が鋳造(大理石像も存在する)され、愛好家に買い上げられていったのである。

離すまいと言わんばかりに女にすがる男と、それと背中合わせになりながら両手で頭を抱える女の姿。
《フギット・アモール》は、《地獄の門》の着想源ともいえるダンテ『神曲』の登場人物「パオロとフランチェスカ」をもとに生み出されたと考えられている。
夫の弟であるパオロと道ならぬ恋に落ちたフランチェスカ。不義に憤った夫によってパオロ共々殺され、愛欲者たちが堕ちる地獄の第二圏で二人もつれ合いながら責め苦を受け続けている。
一見したところでは「自分から離れようとする女を引き留める男」の像に見えるが、「パオロとフランチェスカ」の物語、そしてこの像の《破滅への路》という別名をふまえると、破滅に向かう運命を知りつつも女を離さない男と、運命に苦悩しつつ離れられない女の姿にも見えてくる。

何かを訴えかけるかのような男の表情と、口を引き結び沈思するような女の表情が対照的で、印象深い。

※本来は装飾美術館(結局建設されず)の門扉となるべく注文された。