美人画

歌川豊廣

細見ですらりとした長身の女性が2人描かれている。このような長身の美人を描いた絵師として他に鳥居清長(1752~1815)が知られる。清長の描いた美人は健康的な女性美として当時の人々にもてはやされた。では、豊廣の作品はどうだろうか。同じ長身の美人でも豊廣の描く作品にはそれまでの絵師にはなかった温和な雰囲気がある。鈴木春信(18世紀後半)の描く美人のかわいらしさや、鳥居清長の描く美人の健康美、喜多川歌麿(1753頃~1806)の描く美人の妖艶さなどとはまた違った、見るものをほっとさせるような温かさがある。
この作品では2人の女性が春の川辺で語らう様子が描かれている。2人の女性の着物の黒と淡い水色のはっきりとした対比が、春のそよ風に似合い清新な印象を受ける。煙管を吸いながらのどかに語らう美人、風にわずかに揺れる着物、着物に描かれた桜、遠くに霞む景色、全てが春の情緒に満ちている。豊廣の作品では、人物の美しさだけでなく、このような人物の周囲に描かれる季節の風物や、遠くに広がる景色の美しさなどにも注目してみると作品の味わいがより一層深まるのではないだろうか。
情感の溢れる背景を人物に添え、作品に豊かな情緒を生み出すセンスと技は、さすがに風景版画の大家歌川広重を育てただけのことはある。