百日草

熊谷守一

熊谷守一は、1880年に岐阜県恵那郡付知村に生まれた。1900年に東京美術学校西洋画科選科に入学し、青木繁らと共に洋画を学んだ。30代の6年間は郷里の岐阜で暮らしたが、1915年に再び上京し、二科会に作品を出品した。1932年に、東京都豊島区千早に転居。以後晩年までこの地で過ごした。戦後は一切の団体を離れ自由に制作に取り組んだ。また、草庵のような自宅で自然に囲まれながら簡素な生活を営み、その生き方や風貌から「画壇の仙人」と呼ばれた。写実、フォービズムを経て、対象を単純化した簡潔な形態と色彩の「熊谷様式」と言われる独自の画風による作品を制作した。
この作品は、夏に咲く百日草の姿を描いたものである。対象を単純化し、色彩を輪郭線で囲み簡潔に表現する「熊谷様式」の作品の一つである。濃紺のバックに鮮やかな赤や黄の花が映えている。濃く暗い色にはっきりとした明るい色を組み合わせることにより、花の明るさが強調され、夏の強い日差しに照らされながら堂々と咲く百日草の姿が見事に表現されている。また、花や茎の曲線と葉の直線の組み合わせが画面に独特のリズムを生み出しており、特に四方に伸びた茎の曲線に太陽に向かって咲く百日草の力強さが表れている。花がそこに確かに生きているという強い生命力の感じられる作品である。