曇り日

青木繁( 1882-1911 )

青木繁は1882年(明治15年)久留米市に生まれた。東京美術学校在学中に世界各地の神話に興味を持つようになり、神話を題材とした作品を発表する。神話の舞台である自然は青木にとって畏怖の対象であり、畏敬の念を抱かずにはいられない存在であった。

わずかな絵の具を伸ばし伸ばしし、激しく入り乱れる筆遣いは、抽象画のようにも見え、単なる風景画を超えて太古のイメージを喚起させる。小さな画面の中に若き画家の想像力と創作へのエネルギーが充満している。しかし、曇り空の薄暗い色調にはどこか青木の抱える不安を隠しきれない。それは制作への不安、自分の将来への不安であろうか。転落していく自分の人生を予感しているかのような作品である。静かな風景の内にこもったそれらの複雑な感情が画面に緊張感を含ませているのだ。