パリスの審判

梅原龍三郎

「パリスの審判」とは、ギリシャ神話の一つである。トロイアの王子パリスがギリシャの女神、アテナ、ヘラ、アフロディテの三人の美貌争いを審判し、そのうち最も美しいものに美の証として林檎を贈与することになった。この作品には、パリスが女神に林檎を手渡そうとする様子が描かれている。梅原は第一次滞欧期のイタリア旅行中に美術館でポンペイの壁画を見学し、壁画の色彩や構図に感動を覚え、その後度々「パリスの審判」を題材にした作品を描いている。
さて、梅原は「坐裸婦」(1931年)、「竹窓裸婦」(1937年)、「裸婦扇」(1938年)などを描いた頃から、西洋の油彩の様式に東洋の装飾的な要素を取り入れた作品を制作するようになる。この作品も扇形の金地の紙に油彩でギリシャ神話が描かれるという東西の技法を混交した作品である。扇の骨のように配された人物、その周りに扇の輪郭に合わせるように描かれた草木、これらが軽快で滑らかな筆致で描かれ、画面は伸びやかな広がりを見せる。また、緑と赤、緑と青、緑と白といった鮮やかな色彩の対比が生き生きとして、作品に生命感をもたらす。さらに、素早いタッチで描かれた人物はもはやギリシャ神話の登場人物といった様相を超えており、梅原の自由闊達な精神が窺える。梅原は単なる西洋と東洋の組み合わせという次元を超えた、独自の自由奔放な創作の世界を築いていたのではないだろうか。