旭日(潮岬)

藤島武二( 1867-1943 )

藤島武二は大政奉還のおよそ2ヶ月前に鹿児島の薩摩藩士の家に生まれた。
日本近代洋画の立役者である黒田清輝(1866-1924)は同郷の先輩であり、後に藤島は黒田の推薦で東京美術学校に職を得ている。
特筆すべきは藤島が黒田の模倣に終わらなかったこと。
明治浪漫主義の気風を伝える作品群…与謝野晶子(1878-1942)の『みだれ髪』装丁も含まれる…があり、ヨーロッパ留学後にはイタリア・ルネサンス美術の影響濃厚な日本女性の側面像が描かれた。
風景画は、そんな藤島の後半生を代表するジャンルである。

昭和天皇の即位祝いに学問所を飾る油彩画を依頼された藤島は、題材に「旭日」を選んだ。
意に適う日の出を探し求め、ついにはモンゴルにまで足をのばすが、その過程で日本各地の日の出も描かれた。
画家が潮岬を訪れたのは1931(昭和6)年のこと。岬に宿が無かったため、民家に宿泊して朝早くから写生に出たという。 藤島は自作が名所絵のようになるのを好まなかったため、風景画には場所が特定できるようなものをあまり描き込まない。
ここでは場所の詮索はひとまず傍らに置いて画面を見たい。
溶け合う青と橙の美しさ、力強いタッチ、あるいは前景で存在感を放つ砂浜の装飾的描写が、一層いきいきと眼前に迫ってくるだろう。