美人弄猫之図

宮川長亀(生没年不詳)

18世紀前半

いわゆる肉筆の浮世絵美人画。浮世絵というと葛飾北斎の「富嶽三十六景」など多色刷り木版画の作品が有名だが、絵師が直接描いた肉筆画も存在する。本図の作者、宮川長亀の師である宮川長春(1682-1752)は、肉筆画を専門とする浮世絵師として知られている。
長亀はその名に「長」の字があることから長春の実子の可能性も指摘される人物。涼やかな顔立ちの美人が特徴である。ここでは身支度の最中、猫に帯の端をとられてしまった美人の姿を描く。爪と牙を立ててしがみつくトラ猫の必死な姿が愛らしい。帯を引っ張る美人のほうは、愛猫のいたずらにしばし付き合ってやっているといった具合であろうか。大袈裟なところが無く自然な描写で、何気ない仕草の妙を描き出す作者の技量を感じさせる。まるで長亀がこの場面を目撃してきたかのようだが、帯と人体が交差して対角線の構図を成している点には作為も感じられる。

1750(寛延3)年、日光の修繕事業の賃金をめぐり、将軍家の御用絵師である狩野派の一派(稲荷橋狩野家)と宮川派が諍いを起こした。この騒動は宮川派門人による狩野邸襲撃事件に発展し、主謀者は刑に処せられ稲荷橋狩野も断絶となった。長亀の消息はこの事件以降不明となっているという。