村娘図

岸田劉生( 1891-1929 )

日に焼けたような赤茶色の肌の質感、ふっくらとした頬の弾力、切れ長の眉、意志のある瞳、暖かそうな毛糸の肩掛け。細部まで神経の行き届いた観察眼が村娘の素朴な趣を捉えている。
この少女は、劉生が鵠沼に暮らしていた時代(1917年~1923年) に、劉生の家の手伝いに来ていた女性の娘・お松である。お松は麗子より3つ年上で麗子の良き遊び相手であった。そして、麗子と同様に劉生の画室でモデルとなった。

画面は全体的に赤や茶の落ち着いた暗めの暖色でまとめられている。その中で、髪の毛の艶を表す茶と黒の濃淡や頬と鼻筋の白い光の表現が効果的に用いられ、お松の健康的な姿を引き立たせていることは見逃せない。また、頭につけた赤い椿の花がお松の姿によく似合い、田舎の純朴な少女の愛らしさがより深まっている。腹部に置かれた手はやや不自然な位置にあるが、それが逆にお松の緊張したぎこちない姿を絶妙に描き出していると言えよう。

水彩画独特の素早い筆遣いや絵具のかすれ具合、色彩の下に見える軽妙なデッサンの線に、モデルの持つ存在感を掴み取ったままに描きとめようとした劉生の息遣いが感じられる。劉生は対象の真を深く見つめ、それを新鮮なうちに表現することのできる画家であった。